犬の義足は日々進歩・進化していき、なんと3Dプリンターで製作できる時代になりました。3Dプリンターを使えば、どんな形の足でも思いのまま犬の足に合った適切な義足を製作できるメリットがあります。
本記事では、3Dプリンターで製作した犬の義足の事例や、日本での製作が可能なのか・製作の注意点などを解説していきます。
犬の義足を3Dプリンターで作った事例
まずは、3Dプリンターを使って実際に義足を製作した事例を、画像・動画とともに紹介します。
3Dプリンターで作った義足で走る犬【ダービーくん】
製作国 | アメリカ |
製作会社 | 3D Systems社 |
製作者 | Tara Anderson氏 |
参考サイト:嬉しそうに走りまわる犬のダービー君
3Dプリンターの義足を付けた犬として、真っ先に出てくるのがこの【ダービーくん】です。ダービーは事故や病気で義足が必要になったのではありません。生まれつき前足が短く湾曲していたため、柔らかい地面の上でしか歩行・走行ができない状態でした。
動画を見て頂くと分かりますが、3Dプリンターを付けたダービーの表情は生き生きとしていますね。1日に3キロ以上走り回れるようになったとのこと、元々の足のようにフィットしているからこそです。
3Dシステム社のエンジニアでもあり動物愛護団体のボランティアも行なっていたタラ・アンダーソン氏が、ダービーのために3D技術を用いた義足製作を決意。獣医師の協力の元、“3Dプリンターの義足“が実現化に至りました。
前足の型(モデル)を3Dスキャンしてデータを取得し、カバーを作成して画面上で作り上げていきます。データができた後は、複数の素材を組み合わせていても出力できる3Dプリンターを使用して実際に形にします。
柔らかい受け具のためのゴム素材と丈夫なプラスチック系の素材を組み合わせて同時にプリントし、ダービー専用の義足が完成しました。
3Dプリンターの犬義足はどこで製作依頼できる?
3Dプリンターでの犬義足製作は「アメリカコロラド州にあるOrthoPets社」「オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の金属技術ディレクター」「ノースカロライナ州大学の獣医師」など、海外がほとんどです。
しかし実は、日本にも、3Dプリンターで犬義足を作れる製作所があります。
日本の「アニマルクリニックこばやし」でも3Dプリンターの犬義足を導入
2021年7月現在、埼玉県深谷市にある「アニマルクリニックこばやしの義肢装具外来」が、犬義足の3Dプリンター製作を導入しています。アニマルクリニックこばやしがパートナークリニックとなって、OrthoPets社と提携しています。
アニマルクリニックこばやしはOrthoPets社の世界に4つあるインターナショナルパートナークリニックの一つです。
OrthoPets社は米国コロラド州で動物の義肢装具を製作しています。
これまで世界35カ国、13,000件以上の動物達に関わり、毎月平均180症例の義肢装具を各国へ提供しています。
同社の義肢装具は症例の動作分析、姿勢評価に基づき、3D技術を駆使して、オーダーメイドで製作され日常生活の質を改善する最適な義肢装具として提供されます。
引用元:アニマルクリニックこばやし
OrthoPets社は、動物の義肢装具を3D技術を駆使してオーダーメイドで製作、今までにも世界35か国・13,000件以上の動物たちに関わってきた実績ある製作会社です。
「東洋装具」でも3Dプリンターの犬義足製作プロジェクトが進行中
また、動物用の義肢・装具を専門に製作している東洋装具でも3Dプリンターで犬の義足を製作するプロジェクトを進めている情報もキャッチしました。
2年前から慶応大学と提携して3Dプリンターで犬の義足をつくるプロジェクトも進めている。
新しくパソコンを買い、3Dプリンターを稼働させるためのプログラム「3DCAD」もイチから勉強した。近い将来、3Dプリンターで装具をつくるのが主流になると見越してのことだ。
引用元:動物専門の義肢装具士という仕事をつくった人
3Dプリンター専用のプログラムを購入して新しいパソコンに組み込んだとのこと、今後どんどん3Dプリンターでの義足が主流になっていくことを見越してのようです。
3Dプリンターの技術は犬の義足だけではなく、車輪付き補助具などにも応用されています。
3Dプリンターで犬義足を作る注意点
3Dプリンターを使うことで、使う子(犬)の足にフィットする最適な義足をより緻密に製作できます。しかし3Dプリンターで義足を製作する際にも注意点があるため、事前にきちんと知っておく必要があります。
注意点①3D対応のプリンターを持っていても自分では製作できない
3Dプリンターの義足が普及していくにつれて「個人で製作できるのでは?」という考えも同時に広まっているようです。しかし、知識がない状態で個人製作するにはリスクもあります。
「3Dプリントに関して少々懸念しているのは、誰でも義足をつくれるという考えが広まり始めていることです」と、ウェンドランドは語る。「こうした考えは問題につながります。3Dプリント技術に可能性を感じ、動物を助けたいと思うことは素晴らしい。しかし、専門家として義足をつくっている人たちはきちんと訓練を受け、多くのことを考慮しながら義足の製作にあたっているのです」
引用元:「ペットのための義足」の普及が、3Dプリンターの活用で加速する
愛犬のためにという思いは素晴らしいですが、自分で製作することで、愛犬に思わぬ怪我をさせたり、負担をかけるおそれがあります。
犬義足の製作は、専門の知識を持ったスペシャリストにまかせましょう。
注意点②3Dプリンターの義足が必ず万能ではなく手作りより劣ることも
3Dプリンターで製作された義足であっても万能では無い、ということを知っておきましょう。
3Dの技術は日々最先端のものに進化しているのは事実ですが、手作りされた義足と比較すると・・機械で製作している分、どうしても劣る部分が出てきます。
手作りする方が製作時間も費用もかさみますが、3D技術より手作りの義足の方が優れている部分もあるわけです。人間の手によって繊細に作られた方が良い、という考えが根強いのも確かです。
注意点③日本国内だと製作できるところが限定される
3つ目の注意点が、3Dプリンターで義足を作る場所が日本国内だと限定されてしまう点です。
前章でもお伝えした通り、義足製作に特化した最新の3Dプリンターを搭載・すべての技術を駆使して製作できるところは海外にある会社や大学等です。
病気で診てもらう動物病院のように、飼い主が「自ら出向いて依頼・オーダーする」ということはかなり難しいのが現状です。
今現在は、アニマルクリニックこばやしなどのように提携している病院にて相談するという方法でしか(3Dプリンターを使った義足製作が)確立されていないのです。
3Dプリンターの実用化はこれから広まっていく
3Dプリンターの実用化は、これからどんどんと広まっていくはずです。上記で紹介した事例(犬や猫)の他にも、3Dプリンターで製作した装具を付けた動物たちが存在します。
- くちばしが無いハイイロガン:3Dプリンターで人工のくちばしを製作
- 亀の甲羅:火災で失った甲羅を3Dプリンターで再現
- ウマの足:蹄葉炎にかかって歩けなくなっていたウマの足を、3Dプリンターを使ってチタン製の蹄鉄に製作
- 猫の膝関節:癌によってもろくなった膝関節で痛みが出ていたため、新しい人工関節を3Dプリンターで製作
このように犬や猫に留まらず、鳥やウマ・亀の甲羅にまで3Dプリンターが使われています。
2016年と少し古い記事ですが、こちらの『3Dプリンターで動物の装具、徐々に広がり』に載っている事例です。ぜひご覧ください。
3Dプリンターで製作する犬の義足は、まだまだ日本だと発展途上の段階です。
しかし東洋装具でもプロジェクトとして取り組まれていますし、近い将来3Dプリンターの義足は色々な動物に活用されていくことでしょう。
3Dプリンターと手作り、両方の良いところを取り入れた義足が主流になることを期待しましょう。